ROCKYOUそれから20

先週末、オレがバーテンダーをしていたバーの15周年パーティーがあった。

オーナーにはお世話になったし、お祝いを兼ねてお手伝いをしに行った。

オレがお手伝いに行く事をしょーちゃんはちょっと心配そうにする。

だから、前みたいにしょーちゃんの残業終わりに来てくれる?って甘えてみたら。

うん。分かった。じゃあ、仕事終わったら急いで行くね。

って嬉しそうににっこり笑う。

しょーちゃんはオレが甘えるとすごく嬉しそうにする。

こんな時、やっぱりお兄ちゃんなんだなって頼もしく思う。

長く勤めたバーを辞めてから数月。

嬉しいことや、楽しいことや、切ないこと。

しょーちゃんとの思い出がいっぱい詰まった場所にまた行ける事にオレは胸が踊ってしまって。

しょーちゃんに肝心な説明をするのを忘れていた。

オレがハタチになってすぐ、このバーのオーナーにスカウトされてバーテンダー見習いを始めた。

ゲイが集まる街という場所柄、お客さんには色んな人がいた。

お客さん同士でロマンスが生まれたり、反対に修羅場に遭遇したりと毎日がドラマを見ているみたいだった。

そんなオレもこのバーで何度か恋をして、別れを経験した。

ニノとの出会いもこのバーだったし、オレの青春が丸ここにある。

パーティーにはたくさんのお客さんが来ていて、オレは次オーダーが入るカクテルを作るのに忙しくしていた。

いつもみたいにバーカウンターの端っこに座るしょーちゃんもその辺は心得ていてくれてて、仕事の書類に目を通しながらウイスキーを飲んでいた。

オーダーが落ち着いた頃、オーナーがカウンターの中に入ってきた。

マサキ。今夜は手伝ってくれてありがとう。すごく助かったよ。

ふふふ。お世話になりましたから。

オレとオーナーが話しているのをしょーちゃんがカウンター越しに心配そうに見ている。

そう。オーナーは超イケメンなんだ。

あれ?マサキ?ちょっとふっくらした?

オーナーがオレの腰をサワサワと撫ぜ回す。

しょーちゃんの視線が、痛い。

相変わらずマサキは可愛いなぁ。もう一回ウチで働いてくんないかなぁ?

オーナーがオレの髪に触れて、さらりと耳たぶを触る。

くすぐったくて、つい変な声が漏れてしまった。

その声を聞いた瞬間、しょーちゃんがカウンターチェアからガタンと立ち上がって。

すごく切ない目をしてオレを見つめるから、オレの胸はキュンと締め付けられる。

あれ?こちらはマサキのお友達かな?

オレの恋人の櫻井さんです。

オーナーがしょーちゃんの方をまじまじと見て微笑む。

しょーちゃんは相変わらず切なくオレだけを見てる。

櫻井さん。はじめまして。オーナーの滝沢です。

オーナーがしょーちゃんに握手を求めると、しょーちゃんもハッと我にかえった。

ガッチリ握手をしながら、オーナーが笑い出す。

マサキって面食いだな!

超かっこいいでしょ?

うわー、のろけかよー。でも、マサキが幸せそうで良かった。

オーナーが優しい眼差しをオレとしょーちゃんに向ける。

櫻井さん。マサキをよろしくお願いしますね。こいつ、色あったから。

ちょっと滝沢さん!余計な事言わないでよ。

なんだよ。オレ達、同棲してた仲じゃん。

滝沢さんっ!

滝沢さんは誤解を生むようなことを言いっぱなしにして、笑いながらお客さんに呼ばれて行ってしまう。

残されたオレ達の間には少し気まずい空気が流れる。

カウンター越しのしょーちゃんは自信なさげな瞳でオレを見つめる。

まるで捨てられた仔犬みたいに、今にも泣きそうに。

だけど。

普段は凛しいしょーちゃんのそんな顔に、オレの身体の芯が熱く脈打ち始めた。